たけしの忙中閑話

東京ホリデイ

特別国会も終わったし、政府や党の人事も一段落した。ようやく地元で少しゆっくりできるかと思って帰り支度をしていたら、友人の石破茂氏から連絡があり、「文化の日」の休み明けの早朝にどうしても安保関係の会議をしたいから出てくれないかと言う。「悪いが来週にしてくれんか。」と言ったのだが、「急を要するんだ。頼む。」と懇願され、やむなく東京に居残ることになった。


小生、基本的には東京での仕事が終わればできるだけ早く地元に戻りたい、といつも思っている。大臣や党の要職につけばそうも言っていられなくなるのだろうが(本当は早くそうなりたい。笑)、いまなお選挙基盤が必ずしも安定しているとは言えない身の上としては地元との緊密なコミュニケーションはどうしても欠かせない。まぁ、それは表向きの理由だが、本音で言えば「ふるさとにいるほうがやっぱり居心地がいい」からでもある。何も東京が嫌いだ、と言っているのではない。そうではなく、大の男が一人で東京の休日を過ごすのはなんともわびしいものがあるからだ。


地元に帰ったとて、朝から晩まで会合に追われるているし、家内は家内でほかに用事があってそう相手をしてくれるわけではない。子どもたちもそれぞれクラブ活動だの友達とのお出かけなど、生意気に「日程」がたてこんでいて、かれらとて決して親父の相手を喜んではしてくれない。ほんとのことを言えば家で一番律儀に相手になってくれるのは以前にも紹介した愛犬の「リラ」くらいなものであるが、まぁ、それでも週に一回、家族みんなの顔を見るだけでも心がすこぶる落ち着くものである。


ともあれ、居残ることになった以上は久しぶりの東京の休日を有効に過ごす算段をしなくてはならない。そこで一計を案じて「日程表」を自分で作ることにした。「職業病」と言っていいのだろうか、小生、日程表がないとどうもテキパキと物事をこなせない。日頃の日程表は朝からだいたい30分刻みで作られていて、それこそ目が回るような忙しさなのだが、たまの休日ということになるとどうしてもだらしなく時間を過ごしてしまう。誰かがそばにいればそれはそれでのんびりした過ごし方となるだが、「ひとり」となるとこれは具合が悪い。なにかすることを先に決めておかないと「退屈」を絵に書いたような一日を過ごしてしまう。


そう思い立って「よし!」と張り切って作りあげた日程はこうである。まず、朝は7時に起床。それから日課のウォーキングと筋トレをこなしてから掃除と洗濯だ。朝食は宿舎の食堂が休みなのでウォーキングの途中にコンビニでサンドイッチを買うことにする。お金を持って出るのを忘れないように、っと。よしよし。次は、、、そうだ、せっかくだから散髪に行こう。行きつけの店に電話予約をしなければ、っと。ウム。時間があるから、最近流行の「爪のお手入れ」と「フェイスマッサージ」もやってもらうか(笑)。ずいぶんと色男になるかな。フフフ。。。。。ウム、これでだいたい午前中はつぶれそうだ。と、ここまでは順調に予定が埋まった。


問題はそのあとだ。午後からの時間をどう使うか、である。そこで思い立ったのは「映画」鑑賞である。宿舎の近くの品川プリンスホテルにシネコン(シネマコンプレックスという映画館の集合施設)ができたらしく前から行ってみたいと思っていたが、いいチャンスだ。。。。何を見るかは行ってから決めることにしよう。よしよし、これでまず二時間半は埋まることになる。そのあとはシネコンの隣に開業した水族館にでも社会見学に行くとするか。待ち時間があれば、そこらでお茶を飲む。そうだ、こういう時はマクドナルドではいかんな。いかにも侘しい。ホテルのオープンテラスでパイプタバコでもくゆらすとしよう。。。ウウウム、我ながらいい日程になってきたぞ!とできあがった日程を見て思わずほくそえんだ。


問題は夕食場所だな。。。。これもいつか読者に紹介したプロレスラーご用達の「ステーキ屋」か、最近できたばかりの「焼き鳥屋」のどっちかで決めよう。ここまではよし、と。しかし、まだ一日が終わるまでたっぷり時間がある。部屋に戻ってから一人で過ごす時間のほうが余計に寂しいのであるからして、夜の過ごし方については思案が必要だ。いろいろと考えてみたが「ドラムとブルースハープの練習」ならびに「読みかけの本の完読」というのに当てることにした。酒でも飲みながら本を読んでりゃ、じきに眠たくなるだろうし。。。。翌朝は早いスタートなので11時に就寝するか、っと。よぉーーし。これで完成したぞ。我ながら極めて完成度の高い日程表ができた。


てなわけで、翌日はほぼ日程表どおりに行動を開始し、一部を除いて完璧に完了することができた。「一部」というのは「本の完読」である。選んだのは塩野七生さんの書かれた「ローマから日本が見える」というものだったのが、当たり前のことながら登場人物の名前がカナ文字ばかりなので酒を飲みながらの読書の対象としてはいささか不適切だったと反省している。飲酒が進むほどに意識が朦朧としていく中で、とうとう本を手にしたままスヤスヤと眠ってしまった(笑)。


しかし、やっぱり日程表を作っただけのことはあったと思う。なるほど、ちゃんと計画を立てればたった一日でこれほどたくさんのことができるのか、と大いに満足感に浸っているところである。


シネコンで見た映画は黒土三男監督の「蝉しぐれ」。これが思った以上によかった。藤沢周平さんの原作を映画化した作品だったが、主演男優は歌舞伎の市川染五郎、助演に緒方拳、ヒロイン役には木村桂乃さんという配役で、美しい庄内平野をバックにしてほろ苦い恋愛や友情や武士の生き様が織り成す人間模様がつとめて抑制的に描かれていく。小生、久々に邦画を見て感動した。


特に市川染五郎さんがよかった。やっぱり時代劇には歌舞伎役者だな、とつくづく思う。鍛え抜かれた技による殺陣が画面をしっかりと引き締めている。木村桂乃さんの和服姿にも惚れ惚れしたし、緒方さんの重厚感あふれる演技も渋い。音楽も非常に画面にマッチしていた。監督さんが15年の歳月をかけて作ったというだけのことはある。まだまだ余韻に浸りたいと思って、帰りについ「パンフレット」などを買った。


かくして久々の「東京ホリデイ」は「日程表」の効果もあって非常に充実したものになった。まぁ、それでもしかし、大都会でのひとりの休日が寂しいものであることに変わりはない。何を見ても何を食べてもどんな美しい場所へ行っても人間はやはり感動や喜びを共有してくれる人がそばにいてくれなければ寂しいものである。行き交う家族連れや恋人同士を眺めながら、しみじみそう感じた一日でもあった。連れ合い、恋人、子ども、友人、あるいはたとえ隣人でもいい。同じ時間と空間を分かち合ってくれる存在、そして身近に体温を感じさせてくれる存在は人間にとって実に有り難いものである。もっと感謝しなけりゃな、と思わずにいられない「東京ホリデイ」だった。
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